sweet milk. sweet trap.
「あ、これ美味しい。」
そう言ったボクを、兄が嫌そうに見た。
兄がそんな表情をする理由はただ一つ。ボクが褒めたのが牛乳だからだ。
「人が飲んでるのまで、そんな嫌そうにしなくても良いと思うんだけど。」
「飲んでるのは別にいいさ。アルが美味しいなんて褒めるから。」
「だって本当に美味しいんだよ。」
ご近所のおばさまがお裾分けしてくれたその牛乳は、北部からわざわざ取り寄せたという品だった。
この辺の店では見たことのない瓶に入っていたそれは、とても濃厚でしかも甘くって。
兄と違って牛乳が大好きなボクにとっては、何杯でも飲みたくなるくらい美味しいものだった。
「普段は考えなかったけど、こんなに違うものなんだね。懐かしい味だよ。」
「懐かしい?」
「うん、リゼンブールで飲んでた牛乳の味がする。」
リゼンブールの酪農は、基本的に放し飼いの放牧だ。
適度に運動し、青々とした草を食べ、ストレスもなくノンビリと日々を過ごしている乳牛達。
その牛達からとれる牛乳は、いつもこんな味だった。
きっと取り寄せたという北部の酪農家も、同じような酪農をしているんだろう。
以前チラリと見た事のある、狭い牛舎の中に閉じこめられた牛達の姿を思い出した。
食べるものとか環境とか、やっぱり大切なんだなぁ。同じ種の牛なのに、味がこんなに違うなんて。
「兄さんも飲んでみたらいいのに。」
「お前それは嫌がらせか!?俺が飲むはずがないだろう!」
う〜ん確かに。どんなに美味しくたって、兄は絶対に牛乳は飲まないだろう。
でも牛乳って栄養価高いし、体に良いから本当は飲んで欲しいんだけど。
大体シチューとかに入ってる牛乳は大丈夫なんだから、結局の所兄さんの牛乳嫌いって飲まず嫌いなだけなんだよね。
だったら何とかして飲めるようにならないかな。
「ねえ兄さん。試しに飲んでみない?そしたらボク、兄さんの言う事ひとつ何でも聞くからさ。」
飲む事が出来たらご褒美に、と気軽な気持ちで言ったボクだったが。
その瞬間兄の目がキラリと光ったような気がして、思わず一歩後退した。
「何でも?飲んだら本当に何でも言う事聞いてくれるのか?」
「あー、えーとね兄さん。」
詰め寄ってくる兄の顔は真剣だ。真剣すぎて恐い。
っていうかこれはアレだ。肉食動物が獲物を見る目というか、金髪金目だけにライオンとかヒョウとか。
兄からとんでもないプレッシャーを感じるのは錯覚なのか。
「何でもって言ったよな。アルに二言はないよな?」
「…言ったけどさ。」
「よし、それ寄こせ。」
兄はボクが持っていたコップを奪うように取ると、自分から牛乳をなみなみと注いだ。
そして一度だけ覚悟を決めるかのようにゴクリと唾を飲み込み、そのまま一気に飲み干してしまった。
「う…っげー、まじー!」
涙目になりながら口元を押さえる兄。吐き出したいのを堪えているようだ。
本当に飲んじゃった…。
あっけにとられるボクを兄さんがニヤリと見る。肉食獣復活だ。
「さあアル。約束は守ってもらうぞ。」
嬉しそうな兄にボクは本能的に身構える。
「…分かったよ、でもひとつだけだからね。」
溜息をつきながら、でも防御の態勢は相変わらず。何となく気分の問題だ。
「そんなに身構えるなよ。兄ちゃん傷つくだろ。」
「だって兄さん何だか恐いんだもん。ギラギラしてるんだもん。鼻息荒いんだもん。」
「お前、そんな人を獣みたいに。大丈夫、アルを傷つけるような事はしないって。」
そんな当たり前の事をわざわざ宣言する方が恐い。何をする気なんだ何を。
そう言うと、途端に兄はニヤ〜と嬉しそうに笑った。うわぁ、すっごくいやらしいよ、それ。
思いっきりひいているボクを余所に、兄はご満悦な表情で最低な事を耳元で囁いた。
そのあまりの内容に一瞬理解が遅れたボクは、把握した途端に真っ赤になる。
「嘘でしょ。ね、兄さん冗談だよね?」
「嘘でも冗談でもない。俺はいたって真面目です。」
「真面目って、言ってる内容がこれ以上ないってくらいに不真面目だよっ!!」
「だって言う事聞くって言ったのアルだし。俺ちゃんと牛乳飲んだぞ。」
「それはそうだけど、ボクが聞こうと思っていたのは、好きなご飯を作るとか欲しい物を買うとか。
そんなお願い事だよ。こんなお願いされるなんて思わなかった!兄さん最低、すけべ!!」
「おー、すけべで結構。健全たる青少年の証だ。兄ちゃんが健康で嬉しいだろ、アル。」
「嬉しくないー!兄さんなんか不能になっちゃえ!」
「俺が不能になったらアルだって嫌だろ。大丈夫、恐くないぞー。」
「今現在恐いって!うわ、降ろしてよ兄さん!」
喜々とした兄に軽々と抱き抱えられて、ボクはその腕の中で暴れた。
そんなボクを目を細めながら兄が見詰めてくる。う、この顔に弱いんだ、ボク。
「愛してるから、アルフォンス。」
兄の言葉に、ボクは動きを止めてしまう。
ずるい。それはボクが何も言えなくなっちゃう言葉。全てを許してしまう、大好きで大切な言葉。
「ボクも、愛してる。でも。」
それとこれとは別ー!!兄の髪を引っ張りながら叫んだけど、そのまま寝室へお持ち帰りされてしまった。
その日、どんな事をされたのか、させられたのかは…。ボクの口からはとても言えない。
サイト1周年企画その拾。リクエストは真理奈さん。
リク内容は
・エド×アル(妹)甘ラブ・エロネタで!!
でした。
…エロくない。最後ちょっとだけそれらしいけど。
一応甘くはなったと思いますがどうでしょう。微妙だな〜。
リクからはだいぶ外れてしまいました;
真理奈さん、それでも宜しければお受け取り下さい!!